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清山ちさと「コンマ1秒」にかける思い

東京オリンピックへの夢

九州の南、KIRISHIMAハイビスカス陸上競技場には、シーズン中、毎朝、清山ちさとの姿がある。木製ハードルを載せた台車を自ら引いてきて、誰もいないグラウンドのコースに黙々と並べていく。そして、そのコースをただひたすら走る。

最初の数回は動きを確かめるようにゆっくりと。だが、すぐに極限のスピードに挑む。高さ84センチのハードルの真上でのみ、あたかも時間が静止したかに見える。時折、ハードルに膝を激しくぶつける。それでも止まることなく、そのままゴールラインに向かって駆け抜ける。そしてまた、スタートラインに戻る。ただその繰り返しだ。

南国の日差しが照り付けるグラウンドを見守るスタンドに観客はいない。静けさを破るのは、時折揺れる大きな松やヤシの葉ずれの音と命の限りに鳴く一匹の蝉の声だけだ。

「私の夢は、大歓声のスタンドの前で走ることです。」清山は、スタートラインに戻りながらそう話す。清山にとって、それが、いつ、どこのスタンドの前なのかは明確だ。2020年夏の東京オリンピック。

そして、そこに到達するために何が必要かも明確に認識している。現在、清山の100メートルハードル自己ベストは13秒24、日本女子ハードル6位のタイムだ。だが、オリンピックに出場できるのは3人のみ。東京オリンピック出場の切符まで、あとコンマ数秒の位置だ。コンマ1秒は、ゴール手前およそ1メートルの距離にあたる。

「1メートル。ここで日々練習を繰り返すのは、すべてこの1メートルのためです。」清山はそう話す。

あと数メートル、この地点にたどり着くまでには長い歳月を要した。挫折も一度ではない。清山の故郷は、このハイビスカス陸上競技場から車で10分。ごみ焼却場で働く両親のもとで育った小学校時代の清山は、クラスの誰よりも速く走った。だが、走ることにあまり興味を持てず、金管バンドクラブでトロンボーンを吹いていた。

そんな清山が走りに目覚めたのは、2002年にパリで行われた国際陸連グランプリファイナルをテレビで見た時だった。世界最速を競う選手たちがコンマ1秒を争う試合に鳥肌が立った。

中学に上がると陸上部に入った。コーチは、170センチの清山をハードルの道に進ませた。すぐに才能を開花させた清山は、地方大会で優勝するようになる。

ひたすら走ることに情熱を傾けた。

走ることに夢中になっていた頃の自分を、「ハードルが私の親友で彼氏でした」と笑いながら振り返る。

そんな生活を続け、高校3年になったある日、練習中にふくらはぎの鋭い痛みを覚えた。診断結果は、練習で腓骨を酷使したことによる腓骨骨折だった。

そのシーズンはあきらめるしかなかったが、ギブスがとれるやすぐに練習を再開した。だが、その1年後、また同じところを骨折した。再び走るには、チタンのプレートを埋め込む手術しかないと医師に告げられた。

そのような手術費を両親が簡単に出せないことはよく分かっていた。清山は走ることを諦めるべきか何週間も一人で悩んだ。悩み抜いた後、遂に両親に手術の話を打ち明けた時、父親の反応はあまりに明快だった。「手術を受けるべきだ。」と即答したのだ。

このことがあってから、清山にとっての走る目的は変わった。

「それまでの私は、自分のためだけに走っていました。でも、今は、私を支えてくれる人すべて、両親、友、私の会社「いちご」のために。そして、いつか、日本のために走りたいと思っています。」清山は、今、自分が走る思いをこう語る。

大学院修了を控えた清山は、自分がオリンピックの夢を追い続けるためには企業のサポートが必要なことを知っていた。そんな時に出会ったのが、サステナブルインフラ企業の「いちご」だった。いちごは、スポーツ支援の一環として、日本、あるいは世界でトップを争う陸上、ウエイトリフティング、ライフル射撃選手7名を支援している。

所属する選手たちは、正社員として勤務しながら、大会に出場している。また、そのための十分な練習時間も確保できる。コーチ、用具の他、遠征時の移動費用等はいちごが負担する。練習がない時の清山は、所属する宮交シティ(宮崎県で展開する大型ショッピングセンター)でインフォメーションの接客・案内業務をこなす。

シーズン中の清山は、ほとんどの時間を練習に費やす。その練習メニューは、走ること以外にも、ウエイトトレーニングや、トレーニングボールの上に片足で立ってバランス感覚を研ぎ澄ます練習等、ゴール手前1メートルの戦いを制するためのトレーニングを行っている。

ハイビスカス陸上競技場には、今日もコースを繰り返し走る清山の姿がある。コンマ1秒にすべてをかける世界の戦いに勝つために。

清山は、自分を支えてくれる人たちへの感謝の思いを胸に走る。「いつか、両親、地域の皆さん、そして、いちごへの感謝の思いを形にしたいと思っています。」こう話す清山は、その日のためにすべきことも知っている。「でも、今は東京オリンピックの事しか考えません。」

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