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宮崎のスマートビニールハウス

IoT技術を活用し、若い農家の夢を支援

宮崎空港からフェニックスが立ち並ぶバイパスを抜け、読売ジャイアンツのプロ野球春季キャンプ地の近くにビニールハウスがある。一見、何の変哲もないビニールハウスだが、実はIoT(Internet of Things)技術を導入し、センサーで集めたデータを活用するひなたいちご園のスマートビニールハウスだ。

このスマートビニールハウスでは、ハウス内のエリア別にピンポイントなデータが収集され、湿度、温度、ならびに二酸化炭素濃度が調整されている。そのため、従来のハウスとは違い、同じハウス内でも場所によって湿度も温度も二酸化炭素濃度も異なるのである。

この細かな管理と調整のもとで育つイチゴは鮮やかに赤く、子どものこぶし大にまで成長する。箱詰めされた18粒のイチゴは、一箱約1,500円で宮崎県内のスーパーに並ぶ。

都内では、同じ箱詰めのイチゴに倍近くの値段がつく。海外なら、さらに高く売れるだろう。この「ひなたひめ」ブランドのイチゴを海外にも広めることが、ひなたいちご園代表の長友一平さんの夢だ。32歳のベンチャー農家の長友さんは、自身が栽培する「ひなたひめ」を名立たるブランドに育てるために奮闘中だ。

長友さんの夢への挑戦に欠かせないスマートビニールハウスの導入は、いちご株式会社と手を組むことで実現した。一棟3千万円の資金が必要となるスマートビニールハウスだが、いちごは、スマート農業支援の一環として、長友さんに二棟を用意した。いちごが建設したスマートビニールハウスを農業従事者に貸し出すという取組みの画期的なところは、農家の資金負担とリスクに配慮し、作付け中は大幅に賃料を軽減し、収穫期である1月から6月の間に収穫量に応じた賃料を徴収する。

また、いちごは、自社が全国に保有するビルの商業テナントや取引先を通して、長友さんが栽培するひなたひめの全国販売も支援していく。

「いちごは私の事業をサポートし、夢を後押ししてくれます。」長友さんはこう語る。ひなたひめをタイやシンガポールなど東南アジア諸国に輸出し、ひなたいちご園を現在の10倍の規模に拡大することがひとつの目標だ。いちごは、そんな彼の想いに耳を傾け、支援を申し出た。「一緒に実現させましょう。」

ひなたいちご園へのスマートビニールハウス導入は、いちごにとって、初めての農業分野への参入だった。スマートビニールハウスは、昨年、サステナブルインフラ企業であるいちごが持つノウハウと、同社のパートナー企業であるテヌート社が持つ技術を融合して開発された。

(*当時テヌートはいちごの子会社だった。)

テヌートが開発した光合成効率促進装置「コンダクター」は、光合成を速めて、より大きな果実が多く実るよう促すものだ。ひなたいちご園では2017年に設置され、その結果、収穫量が20%伸びた。

日本の農業は長い間停滞を強いられている。農林水産省は、9兆3,000億円の市場規模を有するその農業を蘇らせるために生産性の向上と農家の所得向上が欠かせないと考えている。豊かな土壌と降雨量に恵まれた農業環境にありながら、2017年における日本の食料自給率は、カロリーベースでわずか38%だ。農林水産省の統計によれば、これは過去最低の数字だ。

日本農業の衰退に危機感を募らせた政府は、長友さんのような農家がより効率的な大規模農業を営めるように規制緩和を推進している。また、他業界からの参入は長い間厳しく制限されていたが、他企業との連携も可能にした。

宮崎県農政水産部の農業担い手対策室で新規参入支援を担当する金子貴史リーダーは、いちごによる農家支援を次のように語る。「いちごのように資金力、ノウハウ、そして様々なネットワークを有する企業による支援は、長友一平さんのようなベンチャー農家にとって大きな力になります。このような様々な力を新しいビジネスモデルにつなげるのも宮崎県の農業活性化のひとつの形だと思います。」

長友さんのイチゴ農園がある宮崎市木花は、太平洋と内陸部の山々の間に位置する肥沃で美しい平野だ。しかし、子どもの頃の長友さんは、実家のイチゴ農園を継ぐのが嫌で木花を飛び出した。九州の最大都市、福岡の専門学校で学んだ後、大手鉄道企業に就職した。

だが、大都市での生活はふるさとへの思いを募らせた。それまで当たり前と思っていた澄んだ空気と草木の香りが無性に恋しくなり、長友さんは故郷に戻った。また、誰にも仕えることなく自分の才覚でビジネスができる農園経営にも魅力を感じた。ただ、長友さんのように若い世代が実家に戻り家業の農業を継ぐケースは珍しいと長友さんは語る。その実情を物語るのが増え続ける空っぽのビニールハウスだ。

「ある程度の生活ができると知れば、農業をしたいと思う若い人たちはもっと増えると思います。それができるということを、私は自分自身で示したいのです。」そう語る長友さんは大きな夢を抱く。

いちごは、長友さんのように日本の農業再生にかける農家を支援する。今年1月、いちごはスマート農業の第二弾として宮崎県内のビニールハウス七棟を追加で購入し、スマートビニールハウスへの装備を進め、マンゴーやライチなどトロピカルフルーツを栽培する農家への貸出しを始めた。

「いちごは、地域貢献と社会貢献を経営理念としています。」いちごでスマート農業部門の指揮を執る石原実副社長兼COOは、こう語る。「都市近郊農業の生産性の向上を通して所得増、地産地消、自給率の向上など、日本の農家とその地域全体の持続可能性を高めること、それが私たちの願いです。」

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