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松本靖世、東京2020大会に照準

東京オリンピックへの夢

松本靖世は、14歳になるまで銃を見たことがなかった。

銃との出会いは中学生の時、家の近くの高校で行われていた学校公開に行った時のことだ。そこは、当時、熊本県で唯一射撃部がある高校だったので、松本は何となく射撃部のブースに立ち寄ってみた。

エアソフトガンを何発か撃たせてもらったら、瞬時にとりこになった。

「日本では、引き金を引いて的を射抜くあの快感を味わえる機会なんて本当にないんですよ。」その時の興奮を松本はそう語る。「私、『これ、やりたい』って、その場で母に言っていました。」

現在、29歳の松本は、22口径ライフル射撃で日本女子のトップに名を連ねる。そして、アゼルバイジャンやカタールで開催された国際大会にも出場する。しかし、松本が本当に狙っているのは、来年に母国で開かれる2020年東京オリンピックだ。

松本は、まるで「ガンダム」に出てきそうな、銀色に光る改良を加えた銃身の長い、高精度ライフルを使用する。だが、日本代表に選ばれるには、ライフルより選手自身の集中力や耐久力が必要だ。50メートル先にある1円玉大の標的を確実に射続ける鋭い視力、ぶれない手と冷徹な精神が必要なのだ。

射撃競技は、他の選手との競争というより自分との闘いと言われる。既定の2時間45分の間に標的に向かって120回、引き金をひく。松本の計算によると、オリンピックの日本代表に選ばれるためには、1回10点満点の1,200点中1,170点をマークしなければならない。

つまり、最低90回は命中である10点を取り、残り30回は全て9点を取るということだ。9点とは、着弾点が等間隔で描かれた同心円の最も内側からわずか数ミリはずれることが許される、一つだけ外側の円内に収めるということだ。

「でも、1回でも9点の的に当てちゃうと、もう自分に自信が持てなくなるんです。」松本は、そう話す。「そういう時は、10分くらい休みます。そして、私は射撃が好きだからここにいるんだって思い出すようにします。そうすると、またいつもの集中力を取り戻せるんです。」

50メートルという射撃における標的までの距離は、裸眼で見ることがほぼ不可能なレベルだ。松本は、自らの鼓動でずれ得るわずか数ミリを避けるため、撃発タイミングを心拍と心拍の間の一瞬に合わせる。また、姿勢を安定させるため、硬く分厚い生地でできた専用のジャケットとズボン、そして重いブーツを着用する。

松本が日本を代表して行う射撃という競技は、銃の所持が厳格に規制されているこの国においては、スタート地点に立つこと自体、大変な作業を伴うものだ。ライフル銃を撃つためには、筆記試験や警察による犯罪歴調査を含む厳しい申請プロセスを踏まなければならない。

国内試合では、松本を除いたすべての出場者が警察官や自衛隊員であることも多い。

「試合で他の選手を見て、勉強するのが好きです。」松本は語る。「まだ学ぶことがあるからもっとうまくなれる。そう思うんです。」

松本は九州の熊本で育った。トラクターの販売員をしていた父親は、蛸や鯛を釣りに、まだ子どもだった松本を海まで連れ出した。釣った魚をボートの甲板でその場でさばいては刺身にしてくれた。

その父親は、船酔いが入り込む隙もないほど釣りに熱中する松本の集中力に、心底驚いていたという。

学年が進むにつれ、松本はスポーツを好きになっていく。だが、松本はチーム競技でなく一人で戦うスポーツを好み、もっぱら個人競技に出場した。

松本は、高校の射撃部で既にその素質の片鱗を見せている。射撃開始1年目で、全国高校ライフル射撃競技大会の決勝まで行ったのだ。1年生としては前代未聞の快挙だった。その後、ライフル射撃で奨学金を得て関西大学に進み、射撃部でその能力を開花させた。

だが、射撃におけるプロの門戸は、あまりに狭い。そのため、卒業後の松本は、他の個人競技である乗馬に転向することも考えた。だが、そんな時に出会ったのが、サステナブルインフラのいちご株式会社だった。いちごは、スポンサーが付きにくく、あまり競技人口の多くないスポーツ競技において秀でた日本の選手を支援している。

いちごは、松本だけのためにまず射撃部を創り、その後、他のメンバーを募った。現在、松本は、ぶれない態勢と精神力を培うためのジムでの体力作りと射撃場での練習に、日に6-7時間をあてている。

また、松本は週に3日、生まれ育った熊本県の隣、宮崎においていちごが展開するショッピングセンター、宮交シティで業務をこなす。

「射撃は、日本ではあまりメジャーな競技ではないです。」松本は、そう認める。「でも、いちごは積極的に新しいことを始めるし、新たなチャレンジも支援しています。」

松本の目下の目標は、来年3月に行われるオリンピック代表選考会に残ることだ。だが、松本の大きな目標はオリンピックで終わらない。その先にはもう一つの目標がある。射撃競技の認知度を高め、より多くの支援を得られるようにすることだ。

「私は、射撃を日本でもっと広く知られる競技にしたいんです。」そう語る松本の照準は、オリンピックを超えた先も見据えている。

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