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ソフトパワーによる不動産活性化への取り組み

「AKIBAカルチャーズZONE」と「ぶらどらぶ」

ソフトパワーによる不動産活性化への取り組み
最近はサブカルチャーを軸にセカンドマーケット店や飲食店、ホテルの進出も活発な秋葉原界隈

商業ビル活性化のために、アニメーションを製作

秋葉原は戦後の闇市から電子パーツ、家電、コンピューターとソフト、アイドル、アニメなど、時代の変化に合わせてイメージを変えながら、サブカルチャーを軸に独自の発展を遂げてきた街として知られている。
近年はアイドル育成施設、メイドカフェをはじめとする「カワイイ」カルチャーの拠点、またアニメグッズなど日本を代表するソフトカルチャーと出会えるエリアとして世界にも認知されるに至り、国内外から多くの人々が訪れていた。

ソフトパワーによる不動産活性化への取り組み

この一角に建つ商業施設をいちごが取得したのは2018年。「AKIBAカルチャーズZONE(略称:ACZ)」という名称の商業施設は約30年前に家電量販店のコンピューター売場として建てられたものだが、その後、所有者やテナント構成の変化を経て、2011年に現在のようなサブカルチャー業態が集う施設となり、現在までその形が続いている。

いちごは、必要な改修を行った後、集客・収益の両面で効果をもたらす施設運用、街の活性化につながるような戦略を模索。アニメコンテンツを単独出資によって製作し、ACZの活性化、街の活性化につなげるというチャレンジの道を選択した。

ソフトパワーによる不動産活性化への取り組み

いちごはアニメーション製作のために、100%出資の子会社「いちごアニメーション」を設立。社長に就いた中西穣は以前から不動産とコンテンツビジネスを結びつける不動産運用戦略を模索しており、設立と同時にこのプロジェクトの推進を担った。

「不動産業界の考え方は出口(売却)を設けないと収益が大きくならない。不動産にソフトの付加価値を導入し、売却に依存しない新たな収益モデルを長期保有不動産において生み出したかった。秋葉原はアニメやサブカルチャーなど、街の個性がしっかりと存在し、似た特徴を持つ他の街と比べても一番手の印象が強い。すでにサブカルチャーの聖地と言える商業ビルが秋葉原にはあるが、そこに入居すれば一定の売上は確保できるという評価がテナント側にも定着している。私たちも魅力的なコンテンツと共にACZの認知度を高め、ACZを活性化することで、テナントの売上、また街に対しても波及効果を生み出せると確信している。」(中西)

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いちごアニメーション製作のアニメ『ぶらどらぶ』

アニメとのシナジーを活かしたプロモーション展開

いちごアニメーションは、著名なアニメクリエイターである押井守氏を起用。計12話で構成されるアニメーション製作を開始した。
制作陣には、いちごが保有施設(ACZ)ならびに秋葉原の活性化に寄与したい目的でアニメ製作に臨むという意図を予め説明。制作側の理解を得たことに加え、製作委員会方式ではなく、アニメにおいては専門外であったいちごの単独出資という形を強みとして、コミュニケーションをとりながら制作が進んだ。

作品は約1年半の制作期間を経て完成。アーティストによるプロモーションソングの発表、すでに高い知名度と人気を誇るヘヴィメタルバンドLOVEBITESなどによる主題歌4曲という展開、またテレビ番組での告知、国内外で別々に仕掛けるプロモーション活動など、様々なアプローチを展開しながら、アニメ『ぶらどらぶ』は本格的な公開に先駆けて2020年12月に第1話をYouTubeで配信。2021年2月からはデジタル放送を主とした様々なチャンネルによる国内配信がスタートした。
世界中にファンの多い押井氏だけあり、新作告知は海外からの反響も多く、国内外メディアからの取材依頼や問い合わせも届く状態となった。海外マーケットの展開も視野に入れた今後の作品プロモーションにあたり、着実に下地を形成している。海外からACZの取材依頼など、これまでにない動きが起きた。

また2020年末には、都内シネコンで先行上映会開催、ACZ及び都内商業施設内において公式グッズを販売するオフィシャルショップが開店している。
商業施設にとって、集客を促すきっかけとなるイベントやプロモーションは多いほど心強いと言われる。これを機に不動産業界のネットワークを活用し、他社の商業施設の中からアニメとの親和性が高いと考えられる施設への出店も模索。いちごにとってはコアなアニメファン層以外のマーケティングを、また商業施設にとっては新たな集客手段としての効果を検証している。

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左)公式グッズショップ「CulZone」はダイバーシティ東京 プラザに出店(2021.4.4まで) 右)ユナイテッド・シネマ豊洲で行われた『ぶらどらぶ』先行上映会

「いちごアニメーションの事業は、これまで賃貸人・借家人のみのお付き合いであった、または、ビジネスで絡めなかった業種、業態、企業様との間にコンテンツがあることにより、互いのビジネスを広げられる側面も持っている。この取り組みは今後も進めていきたい。」(中西)

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ACZに出店した「CulZone」、開店当初のコンテンツとして『ぶらどらぶ』及び関連作品の公式グッズを豊富に扱う

テナント、オーナーが一体的に推進するACZの活性化

一方、ACZでは、施設活性化を目的としたアニメ製作をテナント各店にも説明し、ACZでの『ぶらどらぶ』プロモーション推進を機にテナント会を設立。数年前までアイドル育成ビジネスが隆盛を極めていた秋葉原にもお客様をつなぎとめる新たな魅力を求める声が小売店を中心に広がっていた中で、この話は好意的に受け入れられた。
YouTubeでのアニメ配信と同時に、ACZ内の空き区画を活用したいちごアニメーションのオフィシャルショップ(CulZone)を開業。ショップ運営は協力的な入居テナント様にお願いし、オーナーとテナントの垣根を越えた協業体制を作りだしている。また、アニメ関連CDの販売や年始お年玉企画品の配布などをテナント様にご協力いただくなど、アニメ、ACZの認知獲得とともに各店の売上向上に寄与する体制を強化し、今後も取り組みを継続する。

CulZoneの運営を担った「アストップ」は、2011年2月からACZに出店しており、ACZの歴史をよく知る店舗でもある。
「オーナーがいちごに変わってから、店舗管理などの面で相談しやすくなり、施設の一体感を感じられるようになった。個店優先という考え方のテナントもいるが、それを否定しない形で施設全体の売上を上げていく、といういちごの意気込みを1テナントとして感じており、今回のオフィシャルショップの運営に協力した。」
と、専務取締役の芳山太治郎氏は語る。

テナント会は1年間の全店会議を経て、施設販促に積極的に関与する意欲を持った3店舗をコアメンバーとした、販促活動の企画・調整・推進体制へと変化し、残りのテナントに協働を促す形で活性化へ向けた取り組みを進めている。
「今後は施設側の観点からも、集客をどう増やすか検討していきたい。『ぶらどらぶ』のプロモーション以降も次のイベントやテナント連携など、テナント会として様々な方法を模索し、いちごと共に良い施設にしていきたい。」

『ぶらどらぶ』が秋葉原を中心にプロモーションを始めている、という認識は外にも伝わりだしており、外部からコラボレーションの問合せが入るようになっている。

ACZ館長で、いちごの佐々木邦仁は語る。
「商業施設を保有する立場として、アニメだけが目立つのではなく、アニメを施設にどう活かすかを考える必要がある。テナント様からの期待に応えること、新しい販促への取り組みや協力先様との提携を成果に変えること、そしてそれ自体を秋葉原という街のプロモーションに発展させること。これらすべてがACZやいちごアニメーションの役割になってきている。」

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変わる秋葉原、変わる店舗

ACZの施設販促を共に考えるコアメンバーの残り2店舗は、ライブハウス「AKIBAカルチャーズ劇場」、そして中古アニメグッズ等の買取販売を行う「らしんばん」である。

地下1階、「AKIBAカルチャーズ劇場」の運営会社である株式会社つくばテレビは、20年前からアイドルコンテンツを企画・制作を行い、衛星放送等のチャンネルで配信している。
インターネットが普及するよりも前の時代からだ。

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「AKIBAカルチャーズ劇場」の様子

ブレイク前・駆け出し中のアイドルを積極的に起用することから、アイドル育成メディアとして評価も得ており、秋葉原でのライブハウス事業も長い。

「当時は近隣にある他の施設を会場としていたが、建物側の事情により新たな場所を探す必要に迫られた。ACZの地下1階がテナント募集していると聞いた時は、既に常連のお客さまも一定数確保できており、場所を変えて再度営業することに不安はなかった。」
と語る、つくばテレビ取締役の木梨暢之氏。2013年のACZ出店以前から秋葉原の商業マーケットに深く関わっている。

一時期、秋葉原は「会いに行けるアイドル」の聖地として高い人気を得ていたが、今ではその勢いも一段落着いた状況にあり、次の展開策を検討していたタイミングで新型コロナウイルス感染症が蔓延しだした。

「最近は大手アミューズメント施設の元ダンサーなど、確かな実力を持つパフォーマーが演じる場所を求めて秋葉原に来るようになった。ライブよりも握手会やグッズ販売を優先する一部のアイドルと比べて、彼女たちのパフォーマンスクオリティやプロ意識は非常に高い。
一方で秋葉原はオタクだけでなく、大人も訪れる街になってきており、これを機にエンターテインメントの質も重視する方向にシフトし、より魅力的な運営を行いたいと考えている。」

さまざまなタイプのお客さまの期待に応える

1,2階「らしんばん」は2014年に「秋葉原店」としてACZへ出店。中古のアニメグッズやゲームソフトなどの買取販売を行っており、海外を含めて約50店舗を展開。中でも秋葉原店は旗艦店の一つとして位置付けられている。

「秋葉原は街自体がオタクカルチャーのランドマークであり、その象徴的存在の一つであるACZで営業を行うことは会社のアピールにもなる。周辺には競合店も多いが、商品流通が盛んであるためポジティブに捉えている。」
と語るのは、秋葉原/関東エリアブロック長の岩井健生氏。
お客さまの趣味趣向に応じた幅広い品揃えは、外国人観光客も含め、多様な人を引き寄せる。
らしんばんは、インバウンド依存型から一線を画し、国内対応を主軸としたスタンスで業務拡大してきた経緯を持つ。


「海外からのお客さまは『ワンピース』や『ドラゴンボール』など、世界で知名度の高いアニメのグッズを探しに来られる。一方でアニメ、マンガ自体は本当にたくさんの種類やファン層があり、作品それぞれに国内のお客さまがファンとなって付いている。それぞれのニーズに合う品揃えを追求することが当店のあるべき姿だと思っている。」

「自分たちは中古品取扱業だが、接客業でもある。何万円もする商品を買ってくださるお客さまがいるので、価格に見合った接客を心がけないといけない。最近は家族連れのお客さまも増えており、そのスタンスはだんだん強化されている。」

近年は外国人観光客増加やテレビでの取材等が増えた影響もあり、秋葉原は以前に増して観光地化してきたと言われている。
お客さまの多様化やトレンドの変化の中で、ACZはどのように変化するのか。いちご単体ではなく、お客さまをよく知るテナント様との協働が大切になると考えられる。
いちごはACZのコアメンバー3店舗を交えて集客や販促のヒントについて定期的に議論している。

「いちごはテナントに細かいことを言わず、基本的にやりたいようにやらせてくれる。今後の展開のためにも、ACZは情報発信力を高めてメディア化を進めてほしい。自分たちには仕事柄、情報発信のスキルはある。その面でACZに貢献できればと考えている。」(つくばテレビ 木梨氏)

「ACZは比較的自由度が高い商業施設だと感じている。お客様のニーズと施設の両方に合った販促策・集客策を考えていきたい。また安全で活気ある街づくりにおいては、1テナントよりは商業施設として取り組む方が効果があると考えており、いちごに期待している。」(らしんばん 岩井氏)

ソフトパワーによる不動産活性化への取り組み

新型コロナウイルス感染症の影響による家ごもり型消費スタイルの定着に加え、モノではなく体験への価値が求められる時代になったと言われる最近の商業環境では、集客と収益の双方を支えるソフトパワーの活用方法が模索されている。
このような潮流を背景に、いちごではアニメコンテンツやエンターテインメントによる、商業施設とのシナジー創出のチャレンジが始まっている。

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