ストーリーStory
ソフトパワーによる不動産活性化への取り組み
「AKIBAカルチャーズZONE」と「ぶらどらぶ」
いちごはアニメーション製作のために、100%出資の子会社「いちごアニメーション」を設立。社長に就いた中西穣は以前から不動産とコンテンツビジネスを結びつける不動産運用戦略を模索しており、設立と同時にこのプロジェクトの推進を担った。
「不動産業界の考え方は出口(売却)を設けないと収益が大きくならない。不動産にソフトの付加価値を導入し、売却に依存しない新たな収益モデルを長期保有不動産において生み出したかった。秋葉原はアニメやサブカルチャーなど、街の個性がしっかりと存在し、似た特徴を持つ他の街と比べても一番手の印象が強い。すでにサブカルチャーの聖地と言える商業ビルが秋葉原にはあるが、そこに入居すれば一定の売上は確保できるという評価がテナント側にも定着している。私たちも魅力的なコンテンツと共にACZの認知度を高め、ACZを活性化することで、テナントの売上、また街に対しても波及効果を生み出せると確信している。」(中西)
アニメとのシナジーを活かしたプロモーション展開
いちごアニメーションは、著名なアニメクリエイターである押井守氏を起用。計12話で構成されるアニメーション製作を開始した。
制作陣には、いちごが保有施設(ACZ)ならびに秋葉原の活性化に寄与したい目的でアニメ製作に臨むという意図を予め説明。制作側の理解を得たことに加え、製作委員会方式ではなく、アニメにおいては専門外であったいちごの単独出資という形を強みとして、コミュニケーションをとりながら制作が進んだ。
作品は約1年半の制作期間を経て完成。アーティストによるプロモーションソングの発表、すでに高い知名度と人気を誇るヘヴィメタルバンドLOVEBITESなどによる主題歌4曲という展開、またテレビ番組での告知、国内外で別々に仕掛けるプロモーション活動など、様々なアプローチを展開しながら、アニメ『ぶらどらぶ』は本格的な公開に先駆けて2020年12月に第1話をYouTubeで配信。2021年2月からはデジタル放送を主とした様々なチャンネルによる国内配信がスタートした。
世界中にファンの多い押井氏だけあり、新作告知は海外からの反響も多く、国内外メディアからの取材依頼や問い合わせも届く状態となった。海外マーケットの展開も視野に入れた今後の作品プロモーションにあたり、着実に下地を形成している。海外からACZの取材依頼など、これまでにない動きが起きた。
また2020年末には、都内シネコンで先行上映会開催、ACZ及び都内商業施設内において公式グッズを販売するオフィシャルショップが開店している。
商業施設にとって、集客を促すきっかけとなるイベントやプロモーションは多いほど心強いと言われる。これを機に不動産業界のネットワークを活用し、他社の商業施設の中からアニメとの親和性が高いと考えられる施設への出店も模索。いちごにとってはコアなアニメファン層以外のマーケティングを、また商業施設にとっては新たな集客手段としての効果を検証している。
テナント、オーナーが一体的に推進するACZの活性化
一方、ACZでは、施設活性化を目的としたアニメ製作をテナント各店にも説明し、ACZでの『ぶらどらぶ』プロモーション推進を機にテナント会を設立。数年前までアイドル育成ビジネスが隆盛を極めていた秋葉原にもお客様をつなぎとめる新たな魅力を求める声が小売店を中心に広がっていた中で、この話は好意的に受け入れられた。
YouTubeでのアニメ配信と同時に、ACZ内の空き区画を活用したいちごアニメーションのオフィシャルショップ(CulZone)を開業。ショップ運営は協力的な入居テナント様にお願いし、オーナーとテナントの垣根を越えた協業体制を作りだしている。また、アニメ関連CDの販売や年始お年玉企画品の配布などをテナント様にご協力いただくなど、アニメ、ACZの認知獲得とともに各店の売上向上に寄与する体制を強化し、今後も取り組みを継続する。
CulZoneの運営を担った「アストップ」は、2011年2月からACZに出店しており、ACZの歴史をよく知る店舗でもある。
「オーナーがいちごに変わってから、店舗管理などの面で相談しやすくなり、施設の一体感を感じられるようになった。個店優先という考え方のテナントもいるが、それを否定しない形で施設全体の売上を上げていく、といういちごの意気込みを1テナントとして感じており、今回のオフィシャルショップの運営に協力した。」
と、専務取締役の芳山太治郎氏は語る。
ACZ館長で、いちごの佐々木邦仁は語る。
「商業施設を保有する立場として、アニメだけが目立つのではなく、アニメを施設にどう活かすかを考える必要がある。テナント様からの期待に応えること、新しい販促への取り組みや協力先様との提携を成果に変えること、そしてそれ自体を秋葉原という街のプロモーションに発展させること。これらすべてがACZやいちごアニメーションの役割になってきている。」
一時期、秋葉原は「会いに行けるアイドル」の聖地として高い人気を得ていたが、今ではその勢いも一段落着いた状況にあり、次の展開策を検討していたタイミングで新型コロナウイルス感染症が蔓延しだした。
「最近は大手アミューズメント施設の元ダンサーなど、確かな実力を持つパフォーマーが演じる場所を求めて秋葉原に来るようになった。ライブよりも握手会やグッズ販売を優先する一部のアイドルと比べて、彼女たちのパフォーマンスクオリティやプロ意識は非常に高い。
一方で秋葉原はオタクだけでなく、大人も訪れる街になってきており、これを機にエンターテインメントの質も重視する方向にシフトし、より魅力的な運営を行いたいと考えている。」
さまざまなタイプのお客さまの期待に応える
1,2階「らしんばん」は2014年に「秋葉原店」としてACZへ出店。中古のアニメグッズやゲームソフトなどの買取販売を行っており、海外を含めて約50店舗を展開。中でも秋葉原店は旗艦店の一つとして位置付けられている。
「秋葉原は街自体がオタクカルチャーのランドマークであり、その象徴的存在の一つであるACZで営業を行うことは会社のアピールにもなる。周辺には競合店も多いが、商品流通が盛んであるためポジティブに捉えている。」
と語るのは、秋葉原/関東エリアブロック長の岩井健生氏。
お客さまの趣味趣向に応じた幅広い品揃えは、外国人観光客も含め、多様な人を引き寄せる。
らしんばんは、インバウンド依存型から一線を画し、国内対応を主軸としたスタンスで業務拡大してきた経緯を持つ。
近年は外国人観光客増加やテレビでの取材等が増えた影響もあり、秋葉原は以前に増して観光地化してきたと言われている。
お客さまの多様化やトレンドの変化の中で、ACZはどのように変化するのか。いちご単体ではなく、お客さまをよく知るテナント様との協働が大切になると考えられる。
いちごはACZのコアメンバー3店舗を交えて集客や販促のヒントについて定期的に議論している。
「いちごはテナントに細かいことを言わず、基本的にやりたいようにやらせてくれる。今後の展開のためにも、ACZは情報発信力を高めてメディア化を進めてほしい。自分たちには仕事柄、情報発信のスキルはある。その面でACZに貢献できればと考えている。」(つくばテレビ 木梨氏)
「ACZは比較的自由度が高い商業施設だと感じている。お客様のニーズと施設の両方に合った販促策・集客策を考えていきたい。また安全で活気ある街づくりにおいては、1テナントよりは商業施設として取り組む方が効果があると考えており、いちごに期待している。」(らしんばん 岩井氏)