ストーリーStory
こどもたちの笑顔をつなぐ
「共生社会」の実現に向けて
ひまわりキャンプが発足したきっかけは、宮崎大学医学部の学生の提案による。現在、宮崎大学で小児科医をしている永澤先生が大学5年生の時、上村先生のところに突然「小児がんの子どもたちのために何かやってあげたい!」と話しに来た。小児がんのこどもたちを東京ディズニーランドに連れて行ってあげたいとのことだった。
しかし、こどもたちを東京ディズニーランドに連れて行くのは困難であったため、もっと出来ることをと一緒に考えていたところ、鹿児島のアリーナでディズニーオンアイスを開催する話を聞き、こどもたちを連れて行ったのが最初のひまわりキャンプとなった。
当時は10人弱のこどもたちだったが、貸切バスで鹿児島まで向かった。目をキラキラ輝かせてディズニーオンアイスを観賞した後、皆でバーベキューをしてレクリエーションを楽しんだ。帰路でこどもたちに「何が楽しかった?」と聞くと、ディズニーに目を輝かせて楽しんでいたこどもたちの全員が「レクリエーション」と答えたという。
普段、なかなか自由に遊べないこどもたちにとっては、皆で一緒になって遊べる時間は何よりも代え難いものなのだろう。その後、近場でレクリエーションをして一緒に遊ぶイベントを企画するようになったと上村先生は話す。現在は、ボール遊びをしたり、クイズをしたりといった動きのあるレクリエーションがプログラムの中心となっている。
ひまわりキャンプで小児がんのこどもたちがレクリエーションをしている時間は、その兄弟姉妹にとっても貴重な時間となる。保護者の時間が小児がんのこどもたちとの時間に費やされるため、兄弟姉妹も寂しい思いをして我慢していることが多い。
ひまわりキャンプの時間、兄弟姉妹にとっては両親に甘えられる貴重な時間だ。
ひまわりキャンプには、毎年、宮崎大学医学部の学生が40~50名所属している。ひまわりキャンプのイベントには例年30名前後の学生が参加する。当日に参加が難しい学生たちも飾りつけやレクリエーションの準備等で参加している。学生主体の団体であるため、毎年の企画に先生方は口を出さずサポート役だ。学生たちがこどもたちのためにしてあげたいことを考え、企画し、運営する。
「参加するこどもたちには、学生が2人以上ついて担当する。こどもたちにとっては、一緒に遊んでくれる、決して怒らない、優しい僕のお兄さん、私のお姉さんで、つきっきりで相手をしてくれることが本当に嬉しいようだ。学生のほかに、小児科医、看護師等も参加する。がんの子どもを守る会の方もサポートしてくれている。また、過去に小児がんを経験された方や近隣の鵬翔高等学校の看護専攻科の生徒も参加してくれている。いちごの皆さんも寄付やプレゼントの差し入れに留まらず、実際にイベントに参加して盛り上げていただき大変感謝している。」と上村先生は話す。
ひまわりキャンプを地域で支える
いちごがひまわりキャンプに参加したきっかけは、地元のラジオ・テレビ放送局であるMRT宮崎放送の杉田莉紗子氏との出会いである。
杉田氏は、小児がんのお子さんのお母さんが投稿しているインスタグラムを東京から宮崎に就職するタイミングの時に見つけ、宮崎の放送局に入るのであれば、自分もこういった事をしている人をもっともっとすくいあげていきたいと強く思ったという。MRT宮崎放送に入ってからは、自らひまわりキャンプを取材し、ニュースやドキュメンタリー番組として放送した。活動自体を多くの方に知って欲しいし、何か不便が生じたときにもこどもたちが孤立しないで済むようにという思いもある。しかし、プライバシーの問題等で放送における扱い方は非常にデリケートだという。
そのような中、ひまわりキャンプでの活動支援を宮交シティ社長でもあるいちごの石原に相談した。
ひまわりキャンプに所属している学生は、こどもたちの勉強も教えている。
こどもたちは院内学級で学校同様に授業を受けることが出来る。しかし、こどもたちの体力に合わせたカリキュラムとなるため、通常の学校より勉強が遅れてしまう。こどもたちがいつか退院して自分の学校に戻った時に、勉強の遅れが学校に戻るハードルとならないよう、2017年から始めたという。
コロナでひまわりキャンプが開催できなかった昨年、いちごと宮交シティではこどもたちにタブレットやプリンター等、リモートで学習支援できるものを贈った。現在は、リモートで勉強を教え、退院後もリモートでフォローが出来ており、保護者さんも本当に喜んでくれていると上村先生は話す。
「こどもたちは、病院にいる間にたくさんの夢を思い描く。将来、看護師になりたい、お医者さんになりたい。そう望むこどもたちも少なくない。その目標を叶えるためにも、こどもながらに勉強しないといけないと思うみたいだ。」
ひまわりキャンプは、年に1回、気候の良い時期に開催されるが、冬には「冬のひまわり会」というイベントも開催している。このイベントは、小児がんのこどもたちだけではなく、その兄弟姉妹も参加できるイベントになっている。ひまわりキャンプに参加できない兄弟姉妹が羨ましがることも理由の一つとしてあるが、兄弟姉妹に参加してもらうと、何か困ったときに様子を窺えたり、協力をしてもらえるので大変意義が大きいと上村先生は言う。また、兄弟姉妹と出かける機会も少ないので、兄弟姉妹と仲良く遊べる貴重な時間ともなるし、何よりご両親が自分の時間を持つことができる。同じ不安や悩みを抱える親御さん同士が一緒にランチに出かけたり相談し合うことで、気持ちの負担を軽くすることもできるという。
今年の「冬のひまわり会」では、いちご、宮交シティ、エス・サンク(宮交シティに入居している人気のケーキ屋さん)、宮崎サンシャインエフエム、MRT宮崎放送より恒例となっているクリスマスケーキとクッキーを宮崎大学病院小児科に届けた。
上村先生よりあたたかい御礼の連絡をいただいた。
『本日はケーキやプレゼントありがとうございました。患者さんや保護者さんたち皆さん本当に喜ばれました。
ほとんどのお父さんやお母さんたちが、ケーキをいただいた患者さんに向かって「頑張ったからだよ。」「頑張ったご褒美が来たね」「頑張って良かったね」という言葉をかけられて、こどもたちは本当に誇らしげで、とても嬉しそうでした。
ケーキを準備していなかった患者さんも複数いらっしゃって、サプライズにとても感謝していらっしゃいました。涙ぐまれる保護者の方もいらっしゃり、くれぐれも感謝を伝えて欲しいとのことでした。この度は本当にありがとうございました。
みなさまも素敵なクリスマスを迎えられますようにお祈りいたします。上村 幸代 』
「いちごはひまわりキャンプの活動を全面的にご支援している。いちごの役職員もひまわりキャンプの活動を誇りに思ってくれている。ひまわりキャンプのホームページを見たり、宮崎大学の取り組みに関心を持ってくれる方も増えている。宮崎での取り組みを他県にも少しずつではあるが展開している。全国の患者様や保護者様のためになればと思っている。社会は一つ。皆が認め合い助け合う社会を実現するために、われわれがお役に立てるテーマとして、病気と闘う次代のこどもたちの成長を支援し、看病に大変なご家庭の環境や経済的負担を軽減していきたい。事業を通じてサステナブルな社会とすることがいちごの使命であり、こうした取り組みを地域の皆様とともに、事業と絡め循環していくようにしていく。」
石原はこう語った。
みなみのかぜ支援学校 なないろ作品展
2021年12月16日、宮崎県の大型複合ショッピングセンターである「宮交シティ」のガリバー広場で、「みなみのかぜ支援学校 なないろ作品展」が開催された。
ガリバー広場は、宮交シティ2階に位置するお客さまの憩いのスペースであり、幅32m×高さ3.6mのガリバー旅行記をテーマとした大壁画が描かれている。静かに横たわる巨大なガリバーの前に子どもたちの作品が所狭しと展示された。
「なないろ作品展」は、宮崎市清武町にある宮崎県立みなみのかぜ支援学校に通う小学生、中学生、高校生のこどもたちの作品の展示会であり、今年度で10周年となる。みなみのかぜ支援学校は、宮崎県内に居住する知的障がいのあるこどもたちの学校である。展示された作品は、絵画、陶器、写真等200点以上。どの作品もこどもたちの個性があふれ出している。
会場には作品を手掛けたたくさんのこどもたちが訪れた。気恥ずかしそうな表情で眺めているこどもたちの作品は、力強く存在感を放っている。
宮交シティの代表取締役会長兼社長の石原実は、開催にあたり祝辞を伝えた。
「私たちは、社会はひとつ、皆が認め合い助け合う社会を目指しています。皆さんが、大切に、元気よく、夢を持って描いた作品を、私たちは、宮交シティに集うショップ従業員はもちろん、宮交シティのお客さまと楽しく見させていただき、勇気を、元気をいただきたいと思います。今日、こうしてたくさんの作品がみんなに見てもらえることは、先生方やお父さん、お母さん、ご兄弟姉妹、皆さまのご協力があってのことなので、そういった皆さまとともに、みなみのかぜ支援学校の益々の発展をいちごは微力ながら支えてまいりたいと思います。」
その後、ユーチューバーとして自身のYouTubeチャンネルをお母さんと一緒に開設しているという児童生徒会の深田奈菜美さんより記念品が宮交シティに贈呈された。
みなみのかぜ支援学校のこどもたちは、日頃、学校の中だけという閉鎖的な空間のみで過ごすことになりかねないため、こうして社会との接点を得られることは大変貴重な機会だと川越校長は語る。
「共生社会」とは、これまで必ずしも十分に社会参加できるような環境になかった障がい者等が、積極的に参加・貢献していくことができる社会のことである。2017年2月に決定された「ユニバーサルデザイン2020行動計画」を背景に、オリンピック・パラリンピック東京大会を契機として、共生社会の実現が強く求められるようになった。共生社会の実現においては、施設整備といったハード面のバリアフリーだけではなく、誰もが相互に人格と個性を尊重し支え合い、人々の多様な在り方を相互に認め合える「こころのバリアフリー」が特に重要視されている。
川越校長は、「なないろ作品展」の意義をこう語る。
「以前は学校に来ていただいた方に見ていただく展示会が主であったが、こどもたちの作品は、勇気、希望、元気、そして内に秘めた可能性や内面の感性等、多大な感銘を与えてくれる。
もっともっと世の中の人に知って欲しいとの思いから、当時の美術教員が宮交シティに相談を持ちかけたのが最初のきっかけで、第5回作品展からは宮交シティで展示会を開催している。
石原会長自ら毎年のように学校に来てこどもたちと触れ合っていただき、教職員の話しを聞いていただいている。一般の方から、素晴らしかった、本当に元気をもらえた、素敵な感性に感銘を受けたと、たくさんの感想をいただき、こどもたちも励みとなり、自分たちが社会に果たす役割を自覚する機会となった。共生社会の実現に向けて、自分らしく生きるということを発信する場を繋げていかないといけないと感じている。一人ひとりが人生の主人公になって欲しい。」
こどもたちにとって、「なないろ作品展」の見学は、ちょっとした遠足だ。少しの不安とそれを上回るワクワクした気持ち。展示会見学とあわせて、宮交シティの飲食店の協力によりお昼の食事もとる。自分でメニューを選び、自分でお金を払って食事をする。生きていくうえでとても大切なことを学習する機会ともなっている。展示会で自分たちの作品が展示されているのを見たこどもたちの喜びは想像以上に大きく、また次も頑張ろうという気持ちに繋がっているという。
共生実現の社会へ向けて、思いを受け継いでいく
川越校長は、宮崎県民の皆さまの誰もが安心して買い物、食事、色々なことで利用できる宮交シティは、環境的にも立地的にも大変恵まれており、継続して開催させていただいていることに大変意義があると話す。
「過去の産物で終わらせず、ここまで作り上げた土台を継承していくことが重要。校長が変わっても、担当教員が変わっても、その思いはしっかり受け継がれていくことが大切だ。そのためには、しっかり発信をしていかないといけない。
TVで放送されニュースで見てもらう。一人でも多くの人にこどもたちのことを知っていただき、どんどん地域と繋がっていくことが大切。いくら環境が整っても、私たちが外に出て発信していかないと物事は進まない。」
「いつも支援学校の児童・生徒のことを考えていただき、本当にありがたい。そうやって地域と繋がり、地域の人と繋がって、地域で貢献する生き方に繋げていく。それぞれの個性を活かして自分らしくよりよくこころ豊かに生きることが大事。自分らしさを発揮して花開いて欲しい。」
川越校長は優しい笑顔で最後に強い思いを語った。
人は、知らないこと、分からないことに対して恐れや不安を抱く。互いを知る機会、互いに知る努力が、「共生社会」実現の大きな一歩となる。
通りかかったみなみのかぜ支援学校のこどもたちに「こんにちは」と会釈をした。こどもたちは戸惑いながらもはにかんだ笑顔で会釈をしてくれた。
こどもたちの笑顔をつなぐために、今私たちに出来ることはたくさんある。