ストーリーStory
横須賀好きが語り継ぐ、街への想い
いちご よこすかポートマーケット その2
三浦半島フードエクスペリエンスというコンセプトのもと、「いちご よこすかポートマーケット」では、横須賀・葉山の海の幸や山の幸、地元を拠点とした老舗店から海外でも評判の店、横須賀との縁から初出店となった店など、さまざまな店舗が独自の世界をつくっている。
出店された店舗の共通の想いは、「横須賀を盛り上げたい。」に尽きる。
旧施設から出店している長井水産株式会社(1963年創業)の代表取締役会長、宍戸和信氏は「自分自身がワクワクしないと、人を感動させられない。横須賀を盛り上げたいという気持ちを具体的にワクワクに変えたい。」と語る。
あった方がいいはずなのに、出来ていないこと。誰もまだやれていないことって何だろう。
宍戸氏は、これまでの農業、漁業の流通に課題があると考えた。
農作物は季節ごとに旬がある。一方で、色々な野菜を仕入れるために、1軒1軒の農家と契約を締結するのには限界がある。それなら、JAよこすか葉山と一緒に出来れば、季節を問わず、新鮮な野菜を提供できる。
すぐにJAにアポを取り、「JAを通じて平等に発信して出荷できるようにして欲しい。」と相談した。
JAからは、これまでやったことがないと返答されたが、「ダメなわけでなく、やったことがないだけなら、やれないことはないでしょう。もし、JAが先頭に立って、農家を集めることが出来たらすごいことだよ。やれば出来るよ。一緒にやりましょう!」と話し、何度もJAに足を運び、実現することが出来た。
水産物についても考えてみた。
横須賀だけでは限界があるため、三浦半島の海の幸と考えればどうだろう。そのためには、三浦半島に4つある漁協の協力が必要。早速、それぞれの漁協の組合長に説明に回り、三浦漁協、東部漁協、長井漁協、大楠漁協の協力を仰いだ。リスクや余計なお金はかけさせないので一緒にやろう、と漁協の組合長を説得することが出来た。
エントランスを入ってすぐ右手に見えるビーカープリンの店「マーロウ」。
名探偵フィリップ・マーロウの似顔絵をマークにした、やや大きめの耐熱ビーカーに注がれるプリンとカラメルは、その美味しさで地元はもちろん、全国にまで評判が行き渡っている。
「”地域に愛される店”であることが必須。」創業者の子息である白銀剛 副社長はこう語る。
「1984年に地元・横須賀で創業。その後、葉山にカフェレストランを開業した。当時デザートとして出していたプリンをお客さまの要望で耐熱ビーカーのままテイクアウトしていただいたことから、ビーカープリンが誕生した。
会長(創業者)と当時の料理長が掲げた”品質にこだわった商品づくり”の精神を今も持ち続けており、グルテンフリーにもこだわっている。環境への配慮も意識し、ビーカーのリユースもオープン当初から行っている。」
地元への感謝、自然資源への感謝を大切にする白銀氏は、創業者である会長のモットー「誠実」が会社に浸透していると言う。
「判断を仰ぐ上司がいない状況で、スタッフが判断に困ったときには、お客さまが喜ぶ判断をするように教えている。」
その方が気持ちよく寝られるでしょうと白銀氏は笑みを浮かべた。
白銀氏は、産業が少ない地元のことを以前から気にかけていた。
“地元である横須賀を盛り上げたい”
2022年4月、ケーキとプリンの工場を新たにつくり、拠点を拡大しようとしていたところ、横須賀市から出店に誘われた。
「ポートマーケットがオープンした時は、元々のリピーターである地元のお客様が並んでくれた。売り上げは予想以上。今も多くのお客様に来ていただいている。」
子どもの頃、家族祝事で必ず利用する洋菓子屋があった。
そこでの買い物と洋菓子の味が素敵な思い出として深く刻み込まれているのだと言う。
「神奈川には崎陽軒さん(シウマイ)や豊島屋さん(鳩サブレー)など、全国的に知られるお店がある。私たちも、神奈川と言えばマーロウ、と言われることを目指している。お客さまの大事な記念日にマーロウが選ばれるようになりたい。」
他社を気にすることなく、規模を追い求める出店は行わない。
創業時からプリンを提供しているので、当時若い年代だった方が子や孫を連れて3世代で買い求めに来られることもある。こういう関係や縁を大事にしたいと語る。
HONEY BEEは1968年創業。創業者がアメリカ軍基地のシェフだった縁から、基地前に本店をオープンした。
ポートマーケット店は2店舗目になる。
スタッフは高校生のアルバイトから50歳代までおり、全員が横須賀生まれ。本店の歴史を知るために、誰でも必ず1日目は本店で働いている。
「本店からは他には代えられない歴史を感じる。それは店を多く展開することより大事なこと。テーブルや椅子から食器、ディスプレイ、店から見える風景など、ここでないと分からないものがたくさんある。」
お店の看板には「GALLEY」と記載されている。アメリカの軍隊用語で艦船、航空機などの厨房の事だという。
「この街は、基地がないと成り立たない。大きな船が着港すると、しばらく横須賀の人口は5,000人ほど増える。賛否はあると思うが、自分は横須賀に基地があって良かった。」