証券コード 2337 いちご株式会社

事業内容 事業内容 事業内容Business

「Re-Design」プロジェクト「HOTEL IL PALAZZO」

EpisodeⅣ

原点回帰「Re-Design」

いちごは、2016年に「HOTEL IL PALAZZO」を取得。2019年には運営事業を譲受し、いちごグループのワンファイブホテルズがホテル運営を受託した。
そのような中、本格的に改修計画を進めることとなった。いちごのコアコンピタンスは現存不動産に新たな価値を創造する「心築(しんちく)」という独自の技術、ノウハウである。この心築を最大限に活用して「Re-Design」プロジェクトは進められた。

開業当初のイル・パラッツォは、強烈なインパクトを放つ外観とともに、唯一無二のデザインホテルと最先端カルチャーを発信するディスコという2つの機能が呼応しあい、春吉の街をガラリと変貌させるきっかけにもなった、革新的な建築だった。その後、前所有者による改修等を経て、いちごの取得当時には、2階以上がホテル、1階と地下はブライダルショップと宴会場として、機能も動線も完全に分離した状態で運営されていた。

今回の⼤規模改修にあたり、サステナブルな建物としての未来を⾒据え、中⻑期的な収益向上を図る事は⽋かせなかった。一方で宿泊者と外来者との交流や、先行してリニューアルした隣接の「The OneFive Villa Fukuoka」や「The OneFive Terrace Fukuoka」とも連携した地域との繋がりを再構築し、新たなカルチャー発信の拠点とする事も重要なミッションであった。

パートナーには、開業時のアートディレクションを担当した内⽥繁⽒の志を受け継ぐ「内⽥デザイン研究所」を選出。改修の⽅向性を決めるにあたり最も⼤切にしたことは「本質を⾒失わないこと」。イル・パラッツォの存在意義、イル・パラッツォらしさをプロジェクトにおいて問い続けた。そして、原点回帰をテーマとしたプロジェクトは、「Re-Design」プロジェクトと名付けられた。

「Re-Design」におけるプランニング

「Re-Design」プロジェクトにおいて、歴史や記憶をつなぐとともに、コストコントロールや機能性の確保、維持管理の検討等も重要であり、いちごのサステナブルエンジニアリング本部が監修した。
開業準備費⽤等も含めると当初予算を超過する⼤規模⼯事となったが、議論の末、サステナブルな建物として必要になる補修工事や設備更新も同時に実施することとなった。

当初は、客室数を最⼤化する事を念頭に、地上階に最大限客室を確保し、客室として利用できない地下にレセプションとバックオフィスなどを配置する案からスタートした。
交流の場として2階テラスに面した一部をサロンにする案や、アプローチを単純化するため1階にレセプションを設置する案など数種のパターンを検証しながら、最終的には、2階以上を客室化し、階高の高い地下にレセプション、バー、レストラン、サロンなどを集約し、パブリックな空間として最大限活用する計画に落ち着いた。
1階はエントランスとバックオフィスとして、将来パブリックスペースの拡張にも対応できる構成とした。
2階にあった旧パブリックスペースはすべて客室に改装し、スイートルームを通常客室サイズに分割し、客室数を15室増やすとともに、地下の新パブリックスペースの魅力向上による収益向上を見込むことにより、機能的にも整理された構成となった。

建物全体をホテルとして⼀体化するためには、その動線づくりが最初の課題となった。地下にレセプションを設置し、2階以上の客室とつなぐためには、2階以上で完結していたエレベーターを地下まで延伸させる必要があった。さらには、原設計では階段のみであった1階から地下に向かうパブリック動線についても、新たに確保する必要があった。各エレベーターの配置や機種について何度も検証を繰り返し、その実現性を確認して、全体の構成を固めることが出来た。

2019年12⽉に最初のゾーニング案が提⽰され、コロナの影響による計画の⼀時保留も経て、概ね基本プランが固まったのは2021年9月のことだった。

その後、詳細を固めるにあたっては、予算、スケジュールとのはざまで、デザインの追求とホテル運営を視野に入れたこだわりをバランスさせ、最終的な設計が固まるまでに1年以上の時間を要することとなったが、コロナにより収益性低下が想定される期間にホテルを全面休館し、大規模改修工事は進められた。

建築設計、デザインは、内田デザインが実施し、電気設備、衛生設備、遵法性確認においては、多数の著名な建築物を手掛け定評のある山下設計がバックアップした。


レセプションに向かうエレベーターに繋がる「青いトンネル」

「Re-Design」におけるインテリアデザインの考え方

当時のテーマを再解釈することから始まったプロジェクトは、流行やホテルらしさなどに流されない息の長いデザインを目指して進められた。「パラッツォ」を再考することにより、イタリアのパラッツォの原型を地下空間に応用し、動線や室内構成の基礎とするとともに、1階エントランスは、地下の異空間への結界として捉え、青い光のトンネルとすることとなった。

ロッシ氏、内田氏へのリスペクトの象徴として、エルドラドのファサードを再利用し、ダンシングウォーターをラウンジのシンボルとして配置した。また、イル・パラッツォの原点を示唆する、ロッシ氏のドローイングもホテル内の随所に散りばめられた。

当時のカラースキムであった赤・緑・青の三色にも現代的な解釈を加え、空間や家具に配色することで時代は変わっても継続されるものがあることを表現した。

客室は、プライベートな空間として、快適性を重視し、現代感覚を活かしたデザインとしつつ、一部には内田氏の家具のオマージュを施している。

こうして、デザインの目指すべき本質は変えずに、地域に根差したシンボルとして、新たなファインデザインの精神を継承することで、かつての記憶と目標の再構築を目指している。


水と光のインスタレーション「Dancing Water」
(写真協力:Shiro Kotake)

シンボリックなラウンジ「EL DORADO」(エル・ドラド)

青いトンネルを抜けて、エレベーターを降りると、レセプションを兼ねた、広大なラウンジが出現する。ラウンジは、ロッシ氏がデザインしたバー「EL DORADO」の名称を継承している。このラウンジは、宿泊客以外も利用できる。観光客やビジネスマン、地元客など多様な⼈々が⾏き交う地下のスペースで、異質なものが混ざり合う。春吉という都市が秘めた「混沌」や「多様性」を再現しようと考えたものだ。

この広⼤な空間は、ホテルの名称のもとになった⻄洋の伝統的な「パラッツォ(邸宅)」を表している。エントランスを潜り抜けると中庭が出現し、中央には噴⽔や広場が広がっている。その周囲を囲むようにテーブルが配置され、訪れる⼈々を歓迎する。

ラウンジの奥にそびえ⽴つ⻩⾦のシンボルは、ロッシ⽒による列柱ファサードを思わせる。噴⽔のように⾒えるのは、内⽥⽒による作品「Dancing Water」。1989年に⽣まれた「HOTEL IL PALAZZO」が形を変えて、現代によみがえる。


ホテルとしての機能やまちにおける役割

「Re-Design」プロジェクトは、外装や内装のデザインに着目されがちであるが、サステナブルな建物としての価値を再考する中で、ソフト面の「Re-Design」も欠かせない。「Re-Design」は、高度な次元で完成した最適解とされてきたものをさらに最適化することを意味する。

シンボリックなラウンジは、朝食、ランチ、ディナー、アフタヌーンティー等においても機能し、宿泊客以外のビジターも受け入れており、地元の人々にも開放されている。

ラウンジで提供される夜のメニューには、祝祭やクリスマスなどの特別な日に提供されるディナーである「ガラディナー」という呼び名を採用、イル・パラッツォにふさわしい一品を用意している。
ランチタイムには豪華なスイーツブッフェも楽しめる。


ガラディナーメニュー(イメージ)

ガラディナーメニュー(イメージ)

ランチブッフェメニュー(イメージ)

ホテルサービスについても試行錯誤し、たどり着いた答えは、「上質さを感じていただきながらもリラックスできる接客」だった。ゲストの⽬にふれるシーンが多いスタッフのユニフォームも、リニューアルに合わせて⼀新される。三宅⼀⽣⽒のもとでデザインを学び、開業時にユニフォームを⼿掛けたファッションデザイナー ⼩野塚秋良⽒が⼿掛けるブランドよりセレクトした。


⼀⼈ひとりが新たな「HOTEL IL PALAZZO」を愛し、誇りをもって働きながら、そのカルチャーを担う⼀員であるように。「Re-Design」プロジェクトの根幹となるのは他でもない、これから迎えるゲストであり、ここで働く「⼈」なのだ。

1989年12月に開業し、時を経てRe-Designされた「HOTEL IL PALAZZO」 は、2023年10月1日、グランドオープンを迎えた。「HOTEL IL PALAZZO」の、答えのない挑戦はこれからも続いていく。


(情報協力:内田デザイン研究所 長谷部匡代表)
(写真協力:Nacása & Partners Inc.)